「え…ちょ! ちょっと何なんですか!?」
ガラスを叩いても怒鳴っても白衣の人達はこちらを完全に無視してくれる。
それでもやっぱり諦める事はできなくて、私は懸命に目の前のクソ忌々しいガラスの壁を殴ったり蹴ったりした。やりすぎて、元から体力の無い私の息はすぐに上がる。すぐに疲れてだるくなる自分の運動不足をこれほど呪った事はなかった。
そうこうしているうちに、ふと気付いた。服がだんだん重くなってきている。私が疲れてへばっているのとは無関係に。
服がだぶだぶになってきてる?
それならまだ良かった。でも違った。服が大きくなった訳じゃない。
視界が低くなってきている。見下ろした私の手が、縮んでいる。それはとりもなおさず、私自身が縮んでいる事の証明でもあった。
びっくりしてまじまじと見つめる私の前で、手の甲から青い産毛が生え始め、指の数は減っていく。隣のガラスケースに入れられていた色違いのミュウのように。
――まさか!
「い…嫌っ! 嫌や…!! 何でウチが…っ、出し…ミュ……ミュウゥッ!?」
もう丁寧な言葉遣いをする余裕もなくて叫んだけど、私の声は甲高い鳴き声へと変化していった。
腰の辺りには酷い違和感が生じ、ゆるゆるになったジーンズから身体の一部が飛び出すような奇妙な感覚。思わず振り返ると、長い尻尾が揺れている。
足は…脚が…太腿や脛が極端に短くなっていく一方で、足首から先が伸び、履いていた靴や靴下からはみ出して、だぶだぶのジーンズの中に埋もれていった。そしてそんな風に変形した足が、私の身体をまともに支えてくれる筈もなく……。
「ミ…ッ!」
服の重さにも半ば引きずられるようにして倒れ込んだ私は、最早私にとっては大きすぎる服に視界を遮られる直前、ガラスに映った自分の姿に絶叫した。
「ミュウウウゥゥッ!!!」
先程まで隣のケースに入れられていた色違いのミュウとほぼ同じ青いミュウ。それが、私を見返していた。